不完全な人間が生命を賭して求めるものは? - クララとお日さま/カズオ・イシグロ、土屋政雄
人間を人間たらしめているものは何かということを、AF(子守用アンドロイド)のクララの目線から、病弱な少女ジョジー、ジョジーの両親、ジョジーの幼なじみの少年リックらの行動を通して語った作品です。
読書ではなく、Amazonのオーディオブック「Audible」で聴きました。
書籍を自分で読むほうが時間はかからないと思いますが、月額が900円になるキャンペーンにより、書籍を購入するよりお得に購入できたこと、移動しながら、家事をしながらも聴けること、声優さんの演技がとても良かったことで、Audible版も悪くないなと思いました。
概要
こども用のAF(Artificial Friends /人工親友)として開発されたクララ。物語は全てクララからの目線で語られます。
クララは病弱な少女ジョジィの家に引き取られることになります。
クララがジョジィと友情を育み幸せに暮らす物語…かと思いきや、クララの目線を通してチラチラと見え隠れする不穏なできことの数々。
クララはジョジィの親友として、ジョジィの病気が治るよう献身的に接するが、やがてある計画に自分が巻き込まれていることを知り…。
人間の本音と建前、愛と憎しみ、差別、欲望などがクララの目を通して語られます。
タイトル「クララとお日さま」は、太陽光で駆動するクララが、太陽に信仰心を抱いているところから来ています。
感想
人間とは不完全なもので、その不完全さが個性であり、その不完全な部分を埋めようとする営みこそが、人間が命を賭して求め続ける愛情である…というお話だと私は受け取りました。
AFについての詳細な説明はないのですが、おおむねアンドロイドのようなものという理解で良いようです。AFには感情もあるし、とくににクララには「お日さま」への信仰もあり、まるで人間のように感じられます。
クララは一貫してジョジーに対し愛情を注ぎ続ける存在として描かれますが、周囲の人間たちは、深い愛情の裏に恐れや悲しみを抱いていたり、欲望に駆られて自らを傷つけてしまったり、AFを尊重しつつも差別心を向ける場面があったりなど、複雑な感情を持つ存在として描かれます。
クララは人間たちを注意深く観察しますが、読者にはクララがその場で捉えたことのみが語られるため、クララの感じたことと読者(人間)の感じることにズレがあったり、後出しで詳細が判明したりするのも面白いです。(語り手が全てを語らないというのはカズオ・イシグロ作品の特徴だそうです。)
途中、不穏なことは色々と起きますが、最終的にはハッピーエンドです。
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思い出を力に道を切り拓いた少女の物語 - ルーパートのいた夏/ヒラリー・マッカイ、冨永星
第一次世界大戦前後のイギリスを舞台に、主人公の少女クラリーと、兄ピーター、いとこのルーパート、友人のヴァネッサとサイモンの姉弟が大人になっていく様子を描いたイギリスの青春小説です。
戦争がひとつのテーマとなっている作品ですが、戦場の描写はあまりなく(ゼロではないですが)、日本だったら朝ドラになりそうなさわやかなお話でした。「戦争のお話に興味があるけれど悲しいお話が苦手」という方にもおすすめします。
概要
母を亡くし、我が子に全く興味のない父親に育てられたクラリーは、毎年夏休みに祖父母の家に行って、いとこのルーパートに会うことを楽しみにしています。ルーパートだけは、いつもクラリーを歓迎してくれたから。
いつしかそれは恋に変わっていくのですが、第一次世界大戦が始まり、大人になったルーパートは西部戦線に出征してしまいます。
すぐに終わると思われていた戦争が、1年、2年と長引き、クラリーが手紙を送っても、ルーパートからの返事が届かなくなってきます。そしてある日、ルーパートが軍から行方不明になったことが知らされます。
ルーパートはどこに?そしてなぜ行方をくらませたのでしょうか。
前半はクラリーとピーター、ルーパートの幼い頃の夏休みの思い出、ピーターの寄宿学校での生活、後半は戦時中から戦後、クラリーが大学を目指し卒業し、ルーパートと再会するまでが語られます。
感想
舞台は100年前のイギリスですが、2018年の作品らしく、女性差別や同性愛者差別なども描いた現代的作品です。
とくに「仕事をする人と家事をする人はまったく別の存在で、役割を入れ替えたりすることはない」と捉えられていた性別役割分業意識が明示的に描かれています。
クラリーの母はクラリーを産んですぐ亡くなっているため、家事は近隣に住む独身の女性に頼んでやってもらっている状態です。現代であれば、こどもが幼く大変だからかな?と考えるところですが、当時は一般的に「男性は仕事をするもの。家事などしない。」という強い信念があったからのようです。
クラリーも当然のように父親の食事の世話などをさせられています。
また、兄ピーターは寄宿学校へ通うのに対し、クラリーはグラマースクールへの転入や、大学進学も父親に反対されます。(聡明なクラリーに目をかけてくれるグラマースクールの先生や兄ピーターの助けで大学進学を果たします。)
様々な抑圧がありながらも、表立って反抗するわけでもなく、爽やかに切り抜けていくクラリーの聡明さ、芯の強さに目を見はりました。
小学校高学年くらいから読めるので、夏休みに長いお話に挑戦したいお子さんにもおすすめです。ただし、その場合は上述したような差別について、大人が説明してあげる必要があると思います。
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こぶたくん/ジーン・バン・ルーワン、アーノルド・ローベル、三木卓
5歳くらいのこぶたの男の子が主人公の絵本です。小さなお子さんが身近に感じられるお話なので、読み聞かせでもひとり読みでもおすすめです。
手にとったきっかけ
以前に入会していた童話館ぶっくくらぶで届いた本です。
こぶたくんとその家族の短いお話が5編おさめられています。
小さなおばけシリーズなどと比較すると文字が小さかったので、ひばり(年長さん)に与える前に一度読み聞かせてみたところ、お話をたいへん気に入り、その後は繰り返し自分で読んでいます。
どのような位置付けの本か
1文字は約5mm程度で、小さなおばけシリーズ(約8mm)よりも小さいのですが、分かち書きされていることから、レベルとしては同じくらいの「ひとり読み入門レベル」だと感じました。
ひとつひとつのお話が短いので、まだ集中力がそれほど保たないお子さんにはとくにおすすめです。
「本」や「花」などには振り仮名がありますが、漢数字には振り仮名がないので、その点はご注意ください。
どのようなお話か
こぶたくんが妹にヤキモチを焼いたり、お母さんをわざと困らせてみたり、泊まりにきたおばあちゃんをもてなしたり、お父さんとかくれんぼをして遊んだりといった、こぶたくんと家族との関わりの様子がユーモアを交えて描かれています。
すべて家の中のお話で、とくに劇的な何かが起きるわけではないのですが、大人が読むと「幼少期の家族との思い出ってこういうものだよね」と暖かい気持ちになります。
年長さんが自分で読んだ様子
こぶたくんや妹になりきってノリノリで読んでいました。
こぶたくんは5歳、妹のアマンダは2〜3歳くらいかと思いますので、年中さんから年長さんくらいで読むとちょうど良いお話だと思います。
ひばりが特に気に入っているのは、こぶたくんが悪ふざけをして、ミトンを手ではなく耳にはめるシーンです。ライトなクレヨンしんちゃんレベルで悪ふざけをするのが面白いようでした。
この本を与えて親が感じたこと
前述した悪ふざけのシーンのあと、あまりに自由なこぶたくんと妹にふりまわされたお母さんは、心が折れて泣いてしまいます。衝撃的な展開ですが、実際に親業をやっていると、誰しもがこのように我が子のままならなさに泣きたくなることがあるのではないでしょうか。
しかしながら、日本の絵本ではあまり表現されない部分であるように思います。とくに母親の感情は透明化されがちですよね。
もともとは米国の作品のようですが、こども向けの絵本に「親の感情も無視しないで描く」という姿勢があることに感心し、こどもがこの本を読むことには意義があると感じました。
試しに「こぶたくんのお母さんがどうして泣いちゃったのかわかる?」とひばりに聞いてみたところ、「こぶたくんがふざけるから」とかえってきたので、こどもなりに理解はできるようです。
続編「しりたがりやのこぶたくん」では、こぶたくんのお母さんは「ひとりになりたい」と言い出します。これもまた驚きの展開で面白いので、また今度記事にしますね。
頭がよくなる!寝るまえ1分おんどく366日/加藤俊徳
「頭がよくなる!」かどうかはわかりませんが、ひとり読み初心者のお子さんにちょうど良い本をご紹介します。
手にとったきっかけ
年中さんのあいだは、夜寝る前に読書の時間を取っていたのですが、年長さんに進級してからしばらくは、疲れているのか夜は読書をせずに寝てしまうことが増えました。
せっかくひとり読みの力がついてきたので、少しでも本に触れていて欲しいと思っていたところ、絵本作家さんのTwitterでこの本のことを知り、生協で取り寄せてみました。
どのような位置付けの本か
Eテレの「にほんごであそぼ」などで取り上げられるような純文学の名作から、言葉遊びまで、多彩な文章が1日1ページ×366日分+α収められています。
1ページまたは2ページ単位で読み切れる内容なので、読むのが苦手なお子さんでもそんなに嫌にならずに読めそうです。
最初のほうのページは大きい文字で短い文(1年生の教科書くらいのレベル)、読み進めるにつれて文字が小さく長い文になっていくので、無理なくステップアップできます。
どのように読んでいるか
本のタイトルは 「寝るまえ1分おんどく」なのですが、夜は眠そうなので、我が家では「朝、登園の支度が終わって、家を出る時刻になるまでに時間が残っていたら読んでいいよ」としました。
朝はEテレを観ながら支度をするので、テレビの横に置いておき、支度が終わったらテレビを消してこの本を開くという流れにしています。
当然、読む時間がない日も出てきてしまうので、毎日必ず読んでいるわけではありませんが「日常生活の中に読書がある状態」を作ることができたと思います。
本のタイトルは「1日1分」となっていますが、実際には1ページを読むのに1分もかからないので、すきま時間に読むにはちょうど良いようです。
年長さんが読んだ様子
とにかく音読することが面白い時期なようで、古典作品などの「これは意味がわからないだろうな」と思えるような文でも、わからないなりに、リズムや響きを楽しんでいるようです。
気に入ったものはノートに書き写して何度も読み上げることもあります。
こどもは誰にも教わらなくても文を楽しむ力を持っているんだなあと感心しました。
この本を与えて親が感じたこと
いままでは「本人が理解できる内容の面白いお話の本」を与えてきたのですが、この本には詩や俳句、和歌、論語なども載っていて、初めて「文を味わう」体験を与えられたように思いました。
「頭が良くなる」というのは過大評価しすぎなのではと思いますが、幼児の頃から口に出して名作文学に親しんでおくことは、教養の基礎になることは確実だろうと思います。本人が嫌でないのであれば、どんどん読み進めてほしい本です。
頭がよくなる! 寝るまえ1分おんどく366日 [ 加藤俊徳 ]
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女性差別、貧富の差、不平等に少女はNoを突きつけた - 囚われのアマル/アイシャ・サイード
現代パキスタンを舞台とした児童文学です。根強い女性差別や封建制による不平等が12歳の少女アマルの目線で描かれています。
「マララ・ユスフザイさんに勇気付けられた」という著者が、世界中で不平等に立ち向かっている少女へ向けて書いたエールの物語です。 現代のパキスタンを舞台にしたお話。 12歳の少女アマルは、学校の先生になることを夢見て毎日登校することを楽しみにしています。ところがある日、地元の有力者カーン氏の息子ジャワッドに(そうとは知らず)歯向かってしまい、償いとして屋敷の使用人になるよう連れて行かれてしまいます。 地元の人たちは、ほぼ全員が生活のためにカーン一族に借金を負わされており、逆らえば村ごと焼かれてしまうため、誰もカーン一族に逆らうことはできないのです。 一生この屋敷から出られない…と悲しみに暮れるアマル。 ところが「ナスリーン夫人(ジャワッドの母)の付き人」という、屋敷の中では比較的マシな待遇で迎えられ、ナスリーン夫人に一目置かれたり、使用人たちと友情を築いて行くうちに、アマルに逆襲のチャンスがやって来ます。 「こんな世の中、おかしい。あきらめたら、なにも変わらない」 アマルの勇気によって、村が、街が、変わろうとしています。 前半は、人々の中に根強く残る女性差別や、貧富の差による不平等がまかり通るパキスタンの現実にため息の連続ですが、聡明で勇気のある少女、アマルの逆襲にスカッとするお話です。 教育を受けること(文字が読めること)は大切であるということももちろん語られていますが、それ以上に、体制に立ち向かう勇気の大切さを伝えています。 女子は教育を受けなくて良いと思われている、生まれた赤ちゃんが女の子で落胆する、有力者(カーン一族)は村人に高利で金を貸し付けてやりたい放題、屋敷の使用人は給与も貰えず一生解放されない…といった、差別を凝縮したような世界で、これが現代パキスタンの実情と言うのがとても辛いです。また、現代日本もアマルの生きている世界と地続きであると感じました。 父の無理解、男尊女卑を身につけてしまっている周囲の大人の女性たち、人生に落胆している使用人の同僚たちの中にあっても、アマルはそれがおかしなことであると気づいています。 屋敷に囚われ一度は落胆したアマルですが、自らチャンスを掴み取り、使用人の同僚や屋敷の外で知り合ったアシフ先生の助けを借りて、カーン一族への逆襲を始めます。 アマルにとって、もともと通っていた学校のサディア先生は、屋敷へ囚われてからも心の支えでした。また、物語途中で出会う、アメリカ帰りのアシフ先生は、アマルを励まし、背中を押してくれました。 アマルの周囲に諦めモードの大人たちしかいなかったのなら、アマルは屋敷へ囚われたままだったかもしれません。アマルにとって二人は異なる世界への窓だったのでしょう。私も誰かにとってこのような窓のような大人であれたら良いなと思います。 女の子には「世が世なら自分もこういう目に遭うかもしれない」と思わせる内容です。男の子が読んだらどう思うのかな。概要
感想
貧困を利用したナチが家族を引き裂いた - ベルリン 1933 壁を背にして/ クラウス・コルドン
コルドンのベルリン3部作の2作目。1932年から1933年、ナチが第一党となり、ヒトラーが首相に任命され、ドイツ国会議事堂放火事件が起きるまでの様子を、ナチに抵抗する家族の目線で描いた小説です。
1作目「ベルリン 1919 赤い水平」に圧倒された私は、すぐに二作目の「ベルリン 1933 壁を背にして」を手に取りました。三作目の「ベルリン 1945 はじめての春」まで含めるととても長い物語なので、元々小説を読むのがあまり得意ではない私は「どこかでリタイアするのではないか」と自分に対して疑心暗鬼ではあったのですが、今作にもすっかり惹き込まれてしまい、あっと言う間に読み終えました。
続きを読む話は最後まで読んでからだ - 息子がいじめの加害者に?/大原由軌子
ナチに関する疑問を丁寧に解す良著 - ヒトラーとナチ・ドイツ/石田勇治
誰もが心の中に持つ差別とどう戦うか - キャラメル色のわたし/シャロン・M・ドレイパー
11歳のイザベラの目を通して、現代のこどもたちを取り巻く諸問題と、それを乗り越えて行くこどもたちの強さが描かれた名作。小学校高学年のお子さんから、おとなにもにおすすめの1冊です。
続きを読むナチは正しいと信じていた - 若い兵士のとき/ハンス・ペーター・リヒター
歯のはえかわりのなぞ/北川チハル、ながおかえつこ
大きくわかりやすい絵で、歯がどうして生え変わるのかがよくわかります。年中さん、年長さんの進級祝いのプレゼントにおすすめです。
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