行間の記録

ひとり読みに挑戦中の年長さん「ひばり」と、活字中毒の母「くるみ」の読書の記録。

思い出を力に道を切り拓いた少女の物語 - ルーパートのいた夏/ヒラリー・マッカイ、冨永星

第一次世界大戦前後のイギリスを舞台に、主人公の少女クラリーと、兄ピーター、いとこのルーパート、友人のヴァネッサとサイモンの姉弟が大人になっていく様子を描いたイギリスの青春小説です。

 

戦争がひとつのテーマとなっている作品ですが、戦場の描写はあまりなく(ゼロではないですが)、日本だったら朝ドラになりそうなさわやかなお話でした。「戦争のお話に興味があるけれど悲しいお話が苦手」という方にもおすすめします。

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ルーパーとのいた夏/ヒラリー・マッカイ、冨永星

概要

母を亡くし、我が子に全く興味のない父親に育てられたクラリーは、毎年夏休みに祖父母の家に行って、いとこのルーパートに会うことを楽しみにしています。ルーパートだけは、いつもクラリーを歓迎してくれたから。

いつしかそれは恋に変わっていくのですが、第一次世界大戦が始まり、大人になったルーパートは西部戦線に出征してしまいます。

 

すぐに終わると思われていた戦争が、1年、2年と長引き、クラリーが手紙を送っても、ルーパートからの返事が届かなくなってきます。そしてある日、ルーパートが軍から行方不明になったことが知らされます。

ルーパートはどこに?そしてなぜ行方をくらませたのでしょうか。

 

前半はクラリーとピーター、ルーパートの幼い頃の夏休みの思い出、ピーターの寄宿学校での生活、後半は戦時中から戦後、クラリーが大学を目指し卒業し、ルーパートと再会するまでが語られます。

 

感想

舞台は100年前のイギリスですが、2018年の作品らしく、女性差別や同性愛者差別なども描いた現代的作品です。

とくに「仕事をする人と家事をする人はまったく別の存在で、役割を入れ替えたりすることはない」と捉えられていた性別役割分業意識が明示的に描かれています。

 

クラリーの母はクラリーを産んですぐ亡くなっているため、家事は近隣に住む独身の女性に頼んでやってもらっている状態です。現代であれば、こどもが幼く大変だからかな?と考えるところですが、当時は一般的に「男性は仕事をするもの。家事などしない。」という強い信念があったからのようです。

クラリーも当然のように父親の食事の世話などをさせられています。

 

また、兄ピーターは寄宿学校へ通うのに対し、クラリーはグラマースクールへの転入や、大学進学も父親に反対されます。(聡明なクラリーに目をかけてくれるグラマースクールの先生や兄ピーターの助けで大学進学を果たします。)

様々な抑圧がありながらも、表立って反抗するわけでもなく、爽やかに切り抜けていくクラリーの聡明さ、芯の強さに目を見はりました。

 

小学校高学年くらいから読めるので、夏休みに長いお話に挑戦したいお子さんにもおすすめです。ただし、その場合は上述したような差別について、大人が説明してあげる必要があると思います。