行間の記録

ひとり読みに挑戦中の年長さん「ひばり」と、活字中毒の母「くるみ」の読書の記録。

50年前に思いを馳せる - モモ/ミヒャエル・エンデ

1973年に発表されてから、世界中で読み継がれているミヒャエル・エンデの「モモ」。2020年代に読んでみると…。 

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)

 

概要

街の円形劇場に住み着いた女の子モモ。

モモはふしぎな力を持っていて、モモと話せば人々の悩みは消えてしまいます。

街の人はモモに相談に乗ってもらい、モモは街の人に世話をしてもらって暮らしています。

 

ある時からこの街に、時間貯金銀行の灰色の男たちが往来するようになります。

灰色の男たちは街の人々を巧みに騙し、彼らの持つ時間を貯蓄させてしまいます。

街の人々は、貯蓄するためにどんどん時間を節約するようになり、次第にモモを顧みなくなってしまいました。

 

モモは灰色の男たちに狙われるようになってしまいます。

その頃、モモの前に不思議な亀カシオペイアが現れ、モモをマイスター・ホラの元へ導きます。

モモはマイスター・ホラの力を借りて、灰色の男たちから街の人たちの時間を取り戻すことができるのでしょうか。

感想

私が小学校1年生くらいの頃、先生が読み聞かせをしてくださり、その頃は怖い話だと感じていたような記憶があります。

大人になり人の親になった今、どう感じるかと読んでみたのですが、正直なところ「こんなに説教くさい話だったっけ…?」と思いました。

私にとっては純粋に物語を楽しむものというよりは、時代背景を念頭に解釈を必要とする対象であったので、古典作品だと思うことにします。

 

この物語は、読者に対して「そんなに時間を節約して、今を生きないでどうするのだ」と語りかけてきます。

この作品が発表された1970年代を考えると、効率化が進んだ時代であり、日本でも高度経済成長により「モーレツ社員」という言葉が生まれるなど、心の余裕を無くしがちな時代であったろうと想像できます。

このため、1970年代においては多くの読者の心に響くメッセージであったことでしょう。

 

しかし、2020年代においてはどうでしょうか。

モーレツ社員時代から50年ほどを経て、過労により健康を損なう人が少なくないことを私たちは知っており、過度な効率化のデメリットもよく理解しているのではないでしょうか。

また、50年前に比較してビジネスの形態も複雑化、日本においてはデフレスパイラルが加速しており、読者個人にそのような語りかけをしたところで「わかるけどどうにもできない」「今を生きるために時間を節約している」という感想を抱く人が多いのではないでしょうか。

 

また、前半のベッポやジジのエピソードが長いので、時間どろぼうと対決するお話だと思って読み始めると、なかなか本題にだどりつけずに投げ出しそうになりました。

現代の新作だとしたら構成はかなり異なるのではないでしょうか。

 

 

とはいえ、50年間世界中で読み継がれてきた作品です。時間貯蓄銀行というアイデア、モモという存在をどのようなものと考えるか…など、見どころはたくさんあります。

 

現代的な解釈で映像化されるのであれば、是非見てみたい作品です。

 

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)