行間の記録

ひとり読みに挑戦中の年長さん「ひばり」と、活字中毒の母「くるみ」の読書の記録。

孤独な少女が苦難を受け入れるために必要だったものは - スーパー・ノヴァ/ニコール・パンティルイーキス

 

ノヴァとブリジットは仲の良い姉妹。ずっと2人一緒に里親の元を転々としながら暮らして来ました。ところがある日、姉ブリジットがいなくなってしまいます。ひとりぼっちで新しい里親のもとに送られるノヴァ。自閉症の少女ノヴァの成長を描きながら、ブリジットの行方を探るミステリー。

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スーパー・ノヴァ/ニコール・パンティルイーキス
スーパー・ノヴァ

スーパー・ノヴァ

 

概要

主人公の少女ノヴァは、言葉を発したり文字を書くことに困難を抱えているため、ソーシャルワーカーや学校の先生、歴代の里親からは「重い自閉症で知恵遅れ」と思われて来ました。

ほんとうは、言葉も理解しているし、たくさんのことを考えているのに、理解者は姉のブリジットだけ。ブリジットはノヴァのことを「スーパー・ノヴァ」と呼んでくれるのです。

ブリジットとノヴァは里親の元を転々として育って来ましたが、2人はいつも一緒。ノヴァはブリジットと一緒なら、何でも乗り越えることができました。

 

ところが、物語はノヴァがひとり、新しい里親に預けられるところから始まります。

ノヴァはスペースシャトル・チャレンジャーの打ち上げを、ブリジットと見るのを楽しみにしています。「もしはなればなれになっても、チャレンジャーの打ち上げまでにはもどってくるから。なにがあっても大丈夫。約束する」という、ブリジットの約束を固く信じて、ブリジットが現れるのを待っているのです。

1986年1月18日、チャレンジャーの打ち上げまであと10日。「もどってきて、お願い」ブリジットにしか読めない文字で、ノヴァは手紙を綴ります。

 

1986年1月18日から28日までの10日間の出来事が、ノヴァがブリジットへ宛てノートに綴っている手紙と回想を交えながら語られて行きます。

ブリジットはどこに行ってしまったのでしょうか。ひとりぼっちのノヴァはブリジット以外の理解者を得ることができるのでしょうか。ミステリーでありながら、ノヴァの新しい家族の中での成長を描いた物語です。

感想

ブリジット以外に心を開くことのなかったノヴァが、新しい里親のフランシーンとビリー、そしてその娘のジョーニーの深い愛情に触れて成長する姿に涙が溢れました。フランシーンは、今までブリジット以外誰も目をむけようとしなかった、ノヴァが言葉を理解していることに気づいたのです。

 

ノヴァは「重い自閉症で知恵遅れ」という自らに貼られたレッテルに諦めを持っており、序盤では相手に気持ちを伝えることを諦めている描写が続くのですが、フランシーンたちの関わりによって徐々に周囲に心を開いて行き、自ら交流しようと相手に働きかけるまでに成長します。

この先は書いてしまうとネタバレになるので書けませんが、自閉症当事者に限らず、苦難が自分の容量を超えてしまった時に必要なのは、理解し、寄り添ってくれる人なのではないでしょうか。

 

1986年を舞台としたお話なので、登場人物の自閉症や知的障害に対する理解が現代とはだいぶ違うところもありますが「さすがアメリカ、当時の日本よりはだいぶ進んでいるなあ」と思って読みました。(ノヴァは現代的に言えば自閉症スペクトラム、知的障害、学習障害も併せ持っていると見られる描写があります。)

著者自身も自閉症スペクトラム当事者だそうで、ノヴァの自閉症スペクトラム的な行動は自身の経験を元に記したとのことです。

 

12歳のノヴァを主体として語られるので、小学校高学年くらいから読めると思います。1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの打ち上げについて記憶にある世代の方にもおすすめです。

自閉症」というところに構えずに、ノヴァに共感したり、寄り添って読んでもらえたら嬉しいです。

スーパー・ノヴァ

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