当事者・保護者へのエール - 『発達障害』とはなんだろう?/石川憲彦
著者の長い臨床経験からの、発達障害当事者や保護者の方へのエール。とくにお子さんが発達障害と診断されて不安を感じていらっしゃる方には、暗闇を照らす光になってくれる本だと思います。AD/HD、自閉症・自閉スペクトラム症、LDについて書かれています。
408ページもある専門書なので、読むのにとても時間がかかりましたが、読んでみてともて勉強になりました。私の理解できた範囲のことを、私の言葉で記述します。
正常に育つ生き物など存在しない
発達障害について解説した書籍には「脳機能の異常」というフレーズがたびたび使われていますが、著者は「正常に育つ生き物など存在しない」と述べています。
進化論での突然変異とは、新しい異常のことであり、異常が起きなければ生物は進化しないこと、「脳に損傷のない人間など存在しない」(=誰もが異常を持っている)ことなどが書かれています。
産業構造が変化するたびに、新しい障害が作られる
文化や時代が変われば、同じ特性でも障害と捉えられたり捉えられなかったりする。「その社会から求められる好ましい姿」にそぐわないこどもたちが障害のレッテルを貼られてきたということが書かれています。
著者は「法律上、発達障害は『脳機能の障害』とされているが、社会的障害である。」と述べています。
表出する特性が同じでも脳の中で起きていることは人によって異なる
同じ診断名でも、ある薬が有効である人とあまり効果がない人がいることについて、表出する特性が同じ(=診断名が同じ)でも、脳の中で起きていることが異なるため、薬が効く人と効かない人がいるのだそうです。
例えばAD/HDと診断され多動に困っている人に「ドーパミンの関わる多動」に有効なリタリンを投与したとしても、ドーパミンの関与していない多動だった場合は薬が効かないということになるようです。
いまのところ、脳の中がどうなっているかを目で見ることはできないので「リタリンが効いたから、この人の多動はドーパミンが関わっている多動である」とわかる…というトライアンドエラーをするしかないようです。「薬を色々試してみる」というのが精神障害治療のセオリーである理由がよくわかりました。
また、異なる診断名でも、脳の中の同じ部分で同じような変化があれば、同じような症状が出ることは不思議ではないとのことです。
ほかにも見所たくさん
上記以外にも
- 漫然と投薬し続けることの是非
- 法的に「障害」を定義することの問題点
- 治療、投薬すべきという圧力について
- 母性愛神話への批判
- 症状の消失より関係性を構築することを目指すべき
- 「非薬剤的療法なら副作用のリスクはない」というのは本当か
など「なんとなく治療を受けているけど、よく考えてみるとわからないなあ」と思えることについて書かれており、とても参考になりました。
とくに、必ずしも「症状の消失」を治療のゴールにする必要はないという考え方は、とても気が楽になります。
今回は、私の理解できた範囲のことを、私の言葉で記述しましたので、是非実際に本を読んでみてください。