行間の記録

ひとり読みに挑戦中の年長さん「ひばり」と、活字中毒の母「くるみ」の読書の記録。

女性差別、貧富の差、不平等に少女はNoを突きつけた - 囚われのアマル/アイシャ・サイード

現代パキスタンを舞台とした児童文学です。根強い女性差別封建制による不平等が12歳の少女アマルの目線で描かれています。

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囚われのアマル/アイシャ・サイード

 

概要

「マララ・ユスフザイさんに勇気付けられた」という著者が、世界中で不平等に立ち向かっている少女へ向けて書いたエールの物語です。

 

現代のパキスタンを舞台にしたお話。

12歳の少女アマルは、学校の先生になることを夢見て毎日登校することを楽しみにしています。ところがある日、地元の有力者カーン氏の息子ジャワッドに(そうとは知らず)歯向かってしまい、償いとして屋敷の使用人になるよう連れて行かれてしまいます。

地元の人たちは、ほぼ全員が生活のためにカーン一族に借金を負わされており、逆らえば村ごと焼かれてしまうため、誰もカーン一族に逆らうことはできないのです。

 

一生この屋敷から出られない…と悲しみに暮れるアマル。

ところが「ナスリーン夫人(ジャワッドの母)の付き人」という、屋敷の中では比較的マシな待遇で迎えられ、ナスリーン夫人に一目置かれたり、使用人たちと友情を築いて行くうちに、アマルに逆襲のチャンスがやって来ます。

 

「こんな世の中、おかしい。あきらめたら、なにも変わらない」

アマルの勇気によって、村が、街が、変わろうとしています。

 

感想

前半は、人々の中に根強く残る女性差別や、貧富の差による不平等がまかり通るパキスタンの現実にため息の連続ですが、聡明で勇気のある少女、アマルの逆襲にスカッとするお話です。

教育を受けること(文字が読めること)は大切であるということももちろん語られていますが、それ以上に、体制に立ち向かう勇気の大切さを伝えています。

 

女子は教育を受けなくて良いと思われている、生まれた赤ちゃんが女の子で落胆する、有力者(カーン一族)は村人に高利で金を貸し付けてやりたい放題、屋敷の使用人は給与も貰えず一生解放されない…といった、差別を凝縮したような世界で、これが現代パキスタンの実情と言うのがとても辛いです。また、現代日本もアマルの生きている世界と地続きであると感じました。

 

父の無理解、男尊女卑を身につけてしまっている周囲の大人の女性たち、人生に落胆している使用人の同僚たちの中にあっても、アマルはそれがおかしなことであると気づいています。

屋敷に囚われ一度は落胆したアマルですが、自らチャンスを掴み取り、使用人の同僚や屋敷の外で知り合ったアシフ先生の助けを借りて、カーン一族への逆襲を始めます。

 

アマルにとって、もともと通っていた学校のサディア先生は、屋敷へ囚われてからも心の支えでした。また、物語途中で出会う、アメリカ帰りのアシフ先生は、アマルを励まし、背中を押してくれました。

アマルの周囲に諦めモードの大人たちしかいなかったのなら、アマルは屋敷へ囚われたままだったかもしれません。アマルにとって二人は異なる世界への窓だったのでしょう。私も誰かにとってこのような窓のような大人であれたら良いなと思います。

 

女の子には「世が世なら自分もこういう目に遭うかもしれない」と思わせる内容です。男の子が読んだらどう思うのかな。